デフレ・ギャップ推移図の説明

本図は、わが国のGDP勘定など主要公式統計諸系列に基づいて算定した暦年ベースでの、1970〜2008年についてのデフレ・ギャップ計測値の推移を、図示したものである(2008年実質GDP実際値は、内閣府暫定推定に基づき対前年比0.6%減とした)。 労働と資本の総合的な生産性( いわゆるTFP )の向上率を「技術進歩率」と呼ぶことにすると、年率ベースでは、
GDP成長率(%) = 技術進歩率(%) + 労働と資本の総合投入の伸び率(%)
である。したがって、「 技術進歩率(%)/GDP成長率(%) 」という比率(δ比率と呼ぶことにする)が与えられれば、潜在的な完全雇用・完全操業の状態での総合投入の実質伸び率から、同じく 潜在的な完全雇用・完全操業でのGDPの実質成長率を年率ベースで算定しうる。それを、1970年において完全雇用・完全操業の状態が達成されていたと仮定した場合の潜在的実質GDP 176兆円(同年のGDP実際値172兆円よりも潜在GDPは2.6%上回っていたと推計;85年価格評価)を初期値として連接していけば、本図のごとく、そのような潜在的GDPの長期的な成長経路をも示しうることになる。この潜在的GDP水準と実際のGDP水準とのあいだの差が、デフレ・ギャップである。

なお、この1970年についての176兆円という潜在実質GDPの値は、同年において労働力人口と企業の固定資本とを総合して97%の操業率(したがってデフレ・ギャップは3%にまで縮小)に達した状態を仮定して、それを、現実主義的見地から、「潜在的」な「完全雇用・完全操業」の状態であると見なすことにした場合についての推計値である。したがって、本図では、各年次についての「潜在的」(完全雇用・完全操業)実質GDPの水準を示す「指数値」(1970年の実質GDP実際値水準=100)として示されている状態であっても、現実には、それぞれ、摩擦的な要因等による3%のデフレ・ギャップが残されていることが想定されているという計算になっているわけである。

本図に示した計測作業では、わが国の公式の基本統計体系に依拠して、1985年を基準年次とする「労働力人口指数」と「企業固定資本ストック(存在量)指数」とを、経済学の生産関数理論に基づき、同基準年次のGDP勘定における労働と資本の「分配率」0.544:0.456をウェート(これを「オリジナル・ウェート」と呼ぶ)とする加重幾何平均によって総合する算定を行なった。そのように算定された労働と資本の利用可能量の総合指数値は、それを「完全雇用・完全操業状態」での「労働と資本の総合投入量」の 指数値であると見なしうるので、その毎年の伸び率より、上記の計算を行なった。

本図で「潜在的」な( 完全雇用・完全操業の )実質GDP成長経路の「高」は、上記の「 技術進歩率(%) / GDP成長率(%) 」という比率(δ比率)を 1/3と仮定した場合、「中」は 同じく1/3.5 と仮定した場合、「低」は 同じく1/4と仮定した場合である。なお、1/4 以下の小さな比率を想定することは、非現実的であろう。

本図は、GDP勘定や企業資本ストックなどに関しては、 基本的には、1985年価格評価実質値の諸指標の指数データを用いて上記の計算を行なったうえで、その算定結果を1990年価格評価の実質値にも換算して示した。  

本図のデフレ・ギャップ計測方法の詳細については、丹羽春喜『新正統派ケインズ政策論の基礎――真理を簡明な論理と実証で――』(学術出版会、平成18年刊)、157ページ以下を参照されたい。

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