政策要求書:政策要求書本文、詳論および別表

平成10年9月、私の政策論に賛同する企業経営者、コンサルタントなど約 20名が連名で政府の政策担当者あての「政策要求書」を提出しました。以下にそれを掲載します。

平成13年 7月 1日

政策要求書

平成不況すでに八年、状況は悪化の一途をたどり、回復のきざしさえ見えない。 われわれ企業人が、無言の忍耐をこれ以上続けることは、むしろ有害であろう。 よって、別紙で詳論された論拠に基づき、われわれは、以下のごとく要求する。
 政府は、深刻きわまる経済不況、とりわけ、わが国の中小企業を壊滅的な悲境に陥らせてきた従来の「反ケインズ主義的」政策姿勢の誤りを明確に認め、ただちに 正統的かつ真正の大規模な「ケインズ主義的」不況克服政策を公約・宣言し、断行すべきである。
 そのさい、次の二原則の遵守は、きわめて重要である。

 第一に、不況克服のためのケインズ的積極財政政策のための財源は、国債発行によることを避け、明治維新にさいしての太政官札、民部省札発行の故智にならい、 現行法にも明記されている「国(政府)の貨幣発行特権」の大規模な発動によるべきである。これは、「政府貨幣」としての「政府紙幣」(したがって日銀券ではない)の発行、あるいは、それと同じ必要相当額に限定した「政府貨幣発行権」の政府から日銀への売却という方式で、行なうべきである。

 第二に、現在の状況のもとでは、景気振興のためのケインズ的財政支出拡大措置 は、全国民へ一律、一人当たり数十万円のボーナスを政府が支給するという方式で 行なうべきである。この政策は、要すれば、さらに幾年か継続して実施するべきものとする。

このような政策の実施によって、きわめて容易かつ即効的に、また、なんらの苦痛もなしに、わが国の経済の景況は様変わりに上向き、たくましい経済成長が再現 し、わが国は輝かしい興隆の時期を再び迎えうることになろう。当然、不良債権問 題や金融機関破綻の問題も、たちどころに解消する。われわれが提言・要求した政 策によるかくのごとき効果は、まったく確実であって、それに疑念をさしはさむ余地は無い。このような景気回復策なくしては、規制緩和や構造改革といったことも、犠牲のみ多くして功なく、すべて徒労に終わるであろう。よって、われわれは、繰 り返して強く要求する。「政府は、正統的かつ真正のケインズ的財政政策による景 気回復策の大規模な実施を、ただちに断行せよ!」と。これは、われわれ企業者に とっては、まさに死活的な意味を持つ必死の要求である。

別紙の詳論で明らかなごとく、われわれの上記の要求は、透徹した理論的・実証的な吟味・考察に基づき、疑う余地なく確実に妥当な論拠を持つものとして綿密に 練り上げられたものである。われわれの要求するこのような政策の効果等について 疑念のある政策担当者は、なによりもまず、われわれに質問を寄せられたい。われ われの側には、懇切に説明・教示する用意がある。もしも、われわれに説明・教示 を求めようとさえもせずに、理不尽にわれわれの要求を棄却し去ってしまおうとす る政策担当者が居るならば、われわれは、そのような者をぜったいに許さない。わ れわれは、全国の同志を糾合し、その者を、徹底的に糾弾してやまないであろう。


平成10年9月10日

内閣総理大臣
 小渕 恵三 殿

われわれは、この政策要求書に賛同し、直ちに実施するよう強力に要求する。

  1. 江尻 英知 (三洋ラヂェーター(株) ・ 代表取締役)
  2. 濱本 元弘 (成和サービス(株) ・ 会長)
  3. 當山 隆則 ((株)光新星 ・ 代表取締役)
  4. 木村 節三 (KEC(株) ・ 理事長)
  5. 濱野 晃吉 ((株)日本経営センター ・ 取締役社長)
  6. 荒浜 英一 (荒浜総合研究所 ・ 所長)
  7. 大森 和明 (ゲゼルシャフト社 ・ 代表社員)
  8. 阿部 数利 (阿部会計事務所 ・ 所長)
  9. 加藤 四郎 (カネミ倉庫(株) ・ 代表取締役)
  10. 子野日 聡 ((株)三王商事 ・ 代表取締役)
  11. 岩田 三四朗((株)サンショウ ・ トレーディング ・ 代表取締役)
  12. 越川 和雄 ((株)天草引越センター ・ 代表取締役)
  13. 新田 勤  (新田重機整備(有) ・ 代表取締役)
  14. 村中 孝雄 (東栄興業(株) ・ 代表取締役)
  15. 藤井 貞昭 ((株)ユニバーサル ・ エンジニアリング ・ 代表取締役)
  16. 新山 義夫 (秋田屋米穀(株) ・ 代表取締役)
  17. 西井 俊明 (西井運送(株) ・ 代表取締役)
  18. 加瀬 英明 (評論家)
  19. 本城 靖久 (評論家)
  20. 加藤 栄一 (筑波大学名誉教授、常盤大学教授)
  21. 伊原 吉之助(帝塚山大学教授)
  22. 丹羽 春喜 (大阪学院大学教授)

 以上と同文を、宮沢喜一、堺屋太一、樋口広太郎の三氏へも送付した。
この件の世話係は、(株)日本経営センター社長の濱野晃吉氏である。 (同氏の事務所の電話番号は 06−6245−7490 )


詳論

平成10年9月10日

反ケインズ主義を一擲し、
           正統・真正のケインズ政策の
             大規模な断行を要求する

「平成不況」がはじまってから、すでに8年という長い歳月が経過した。しかも、不況は、現在ますます猛威をふるいつつあり、回復のきざしすらない。とりわけ、中小企業の立たされている苦境の深刻さは、筆舌につくしがたい。ここ数年、意欲的で有能なオーナーによるすぐれた経営のもとにありながらも、個々の企業としてはほとんど不可抗力とも言うべき不況の痛撃によって倒産せざるをえなくなった企業は、数えきれない。あるいは失業し、あるいは家業を失うといった境遇に陥った人たちの苦しみはもとよりのことであるが、過去8年間の不況による不動産価格や株価の崩落によってわが国民が失った資産価値は千数百兆円にも達する。これによって、わが国民の一人一人がそれぞれに嘗めつつある辛酸の膨大さには、ただただ、息をのむのみである。

他方、われわれは、厳密な経済理論的・実証的な算定に基づいて、近年(ならびに現在)のわが国の経済においては、総需要の決定的な不足のゆえに、対GDP比で30パーセントないし40パーセントというきわめて大規模なデフレ・ギャップが発生・持続しており、年間200〜300兆円の潜在GDPが実現されえずに空しく失われていることを確認ずみである。

(注) 経済企画庁が、『経済白書』平成10年版などにおいて、たとえば本年(平成10年)第一四半期におけるわが国経済のデフレ・ギャップを、わずかに2パーセント程度と推計し、また、それに迎合・追従するかのごとく、幾つかの大企業系の研究機関もそれを数パーセント以下と推定しているのは(もし本当にそうであるならば、わが国の経済は、現在のような不況であるわけがなく、むしろ、いちじるしい景気過熱になっているはずである)、コンセプトやデータのはなはだしい曲解と、犯罪的欺瞞的算定によるものである。

現在の趨勢が続けば、今後の十年間だけでも、このようにして失われるわが国の潜在GDPの合計額は4000兆円にも達しよう。 だが、このデフレ・ギャップは生産能力の余裕そのものであり、国民経済的にはこれこそが「真の財源」である。

このように、天文学的に超膨大な「真の財源」が存在していることが明らかであるにもかかわらず、現実の不況による惨苦の広範・深刻さを想うとき、われわれは、現在のわが国の経済社会における「豊饒の中の貧困」の矛盾の激烈さと、それをもたらした失政に心の底から憤りを感じざるをえず、また、ふかく憂慮せざるをえない。そして、なによりも急を告げている事態として、いまや、われわれ日本の企業、とりわけ中小企業は、刻々と、壊滅的な打撃を受けつつあるのである。また、このようなわが国の経済運営の誤りが基本的原因となって、アジア諸国が悪性の経済混乱と激しい不況に襲われており、さらに、「世界大不況」を 誘発する危険も迫りつつある。

なぜ、わが国経済の不況がこれほどまでに深刻化し、かくも悪性の危機的な窮迫状況をもたらすまでに立ち至ったのか?

その理由は、簡単明瞭である。昭和50年代の後半から、政府の誘導もあって 「反ケインズ主義」による社会的マインド・コントロール状況が形成され、不況克服の特効薬「ケインズ政策」の発動が封止されてきたからである。ケインズ的なマクロ的総需要管理政策、とくに財政政策の発動が、社会的にタブーとされてしまった以上、ひとたび不況が発生し、しかも、それが市場メカニズムの自立的回復機能の臨界限度を踏み越える(すなわち「流動性のわな」現象が発現する)ほどの激しさに達したとなれば、不況のとめどない深刻化は、必至であった。すなわち、今日の危機的な事態の到来は、数年前から、明確に予見されていたので ある。

(注) 政府が、宮沢内閣時代の平成4年(1992年)から最近まで、数次にわたって「総合経済対策」を大規模に実施したはずにもかかわらず、その効果がほとんど現れなかったことをもって「ケインズ的政策が無効である証拠」とする見解が、ひろく流布されているが、これは、きわめて悪質な思想謀略的デマゴーグである。国民所得統計を一瞥すれば明らかなごとく、「平成不況」がはじまった平成3年(1991年)から昨年(平成9年)まで、政府支出(中央および地方)の実質額の伸び率は、平均年率2パーセント台にすぎず、それを高める政策が本当に実施されたとは、とうてい認められない。ましてや、民間投資支出の低迷を政府支出の増額で補って、この両者の合計額の実質伸び率を、たとえば平均年率5パーセント以上に維持しようとしたような政策運営____それさえ行なわれていれば「平成不況」は起らなかった____の形跡は、まったく無い。すなわち、数次にわたって大規模に実施されたと称されてきた「総合経済対策」なるものは、リップ・サービスにすぎず、そこでは、トータ ルの政府支出を必要なだけ増やして景気を回復させ、十分な経済成長率を維持しようとする政策運営は、ほとんど行なわれてこなかったのであり、また、そもそも、そのような考え方に基づく政策の策定そのものがまったくなされていなかったと判定するほかはない。それは、「反ケインズ主義」の社会的マインド・コントロール強化をねらった策略の一環として、政府が、わが国民を騙してきたものと断ぜざるをえないのである。

かかる失政による深刻な不況のいつ果てるともしれない惨害を、われわれが、ひたすら無言で堪え忍ぶことは、もはや無意味であり、むしろ、きわめて有害であろう。

上記のごとき省察に立脚し、われわれは、ここで、以下のごとく要求する。政府は、これまでの「反ケインズ主義的」な政策姿勢の誤りを明確に認め、それを一擲して、ただちに、正統的かつ真正の「ケインズ主義的」不況克服政策の大規模な実施に踏切ることを公約・宣言し、実行すべきである。

ここで「正統的かつ真正」のケインズ主義的政策とは、次の二点を意味する。

 まず第一に、不況克服のためのケインズ的な積極的財政政策を実施するための財源は、国債発行によることを避け、丹羽春喜教授(大阪学院大学)や永安幸正 教授(麗澤大学)が提言しているごとく、明治維新のさいの太政官札や民部省札の発行の故智にならい、「国(政府)の貨幣発行特権」(現行法では、これは、昭和62年6月1日公布、法律第42号「通貨の単位および貨幣の発行等に関する法律」の第4条に明記されている)の大規模な発動という意味での、「政府貨幣」としての「政府紙幣」(日銀発行の日銀券ではない)の発行によるべきである。この方策の応用として、必要額相当ぶんに限定して「政府貨幣発行権」を政府が日銀に売却し、それだけの額の財政収入を政府が得るという方式でもよい。

現在すでにわが国の国債発行残高は膨大な額に達しており、そのことが、わが 国家財政に重圧を課していることはまぎれもない事実である。そして、そのことを顧慮せざるをえない以上、国債のさらなる発行を財源とする政策の策定は、どうしても姑息かつ規模過小の弊に陥ることが、避け難いであろう。われわれが、今後に積極的かつ大規模に展開されるべきケインズ的財政政策の財源調達を国債発行に頼るのは不適切だと考える理由は、まさに、ここにある。しかし、「国(政府)の貨幣発行特権」の発動____具体的には「政府紙幣発行」(または、その一定額ぶんに限定した発行権の日銀への売却)____という財源調達方式であれば、国債発行にともなう諸種の好ましからざる問題点の発現をすべて避けうる。もとより、国債の場合とはまったく違って、「政府貨幣」としての「政府紙幣」に対しては、政府は利息の支払いや元本の償還を行なう必要がなく、その発行額は、正真正銘、政府の財政収入となる。上述のごとく、現在のわが国の経済には巨大なデフレ・ギャップという形で生産能力の余裕が膨大に存在しているのであるから、この「政府紙幣発行」(または、その一定額ぶん発行権の日銀への売却) という財源調達方式を大規模に駆使しても、インフレ・ギャップ発生による物価上昇の心配はない。したがって、政府も国民も、なんらの負担もなくてすむのである。なお、この財源調達方式は、ケインズ的な積極的財政政策のために用いるだけではなく、それを一部、既発国債の回収に用いて国家財政の健全化にも役立てるべきである。

 第二に、現在の状況では、そのような景気振興のためのケインズ的な財政支出拡大措置は、公共事業費支出の積み増しなどを通じて行なうのではなく、丹羽教授が数年前から提言してきているように、全国民へ一律、一人当たり数十万円のボーナスを政府が支給するという方式によるべきである。また、このような施策は、景気動向を勘案して要すれば、今後も幾年か継続実施するべきものとする。

わが国においてまだまだ不備な点の多い社会資本や防衛力の整備のための公共投資を十分に行なうことは必要であり、そのための財政支出が景気を支え上向かせる効果を持っていることも、明らかである。しかしながら、従来は、政府が 「公共事業費支出を増やして景気回復に配慮した」と称しながらも、その他の費目の財政支出を削減してきたことによって、マクロ的には景気回復効果はほとんど無に帰せられてきた。しかも、しばしば、そのことが、あたかも「ケインズ的 財政政策が無効果である」ことの証拠であるかのごとく宣伝され、社会的な「反ケインズ主義」マインド・コントロール状況の形成のために悪用されてきたのである。われわれは、現状では、そのような欺瞞に満ちた従来の慣行を避けることが、ぜひとも必要であると考える。

われわれが要求した上述の「全国民へ、一律、数十万円のボーナス支給」という施策ならば、従来の政府の財政政策にともなわれていた上記のごとき欺瞞的策 略を仕組まれる危険は避けうる。そして、このような施策の効果は決定的かつ即効的であり、一年半ないし二年のうちに、その波及効果____すなわち、「乗数効果」____をも含めて100兆円を超えるGDPの増加が生じ、実質経済成長率は年率10パーセントを超え、わが国経済の景気が、様変わりに好転することは確実である(われわれは、現在のわが国の経済において、乗数値が 2.0〜2.5 という十分に大きな値であることを、理論的・実証的に疑う余地なく確認ずみで ある)。もとより、不良債権問題や金融機関破綻問題なども、たちどころに解消してしまうであろう。政府財政(中央および地方)も一挙に健全化されよう。このような政策は、減税よりもはるかに大規模に行なうことができ、ずっと公平である。全国民へのボーナス支給といっても、日銀から市中銀行における国民一人一人の預金口座に電子的に所定の金額が振込まれればよいのであるから、銀行業界に依頼しさえすれば、きわめて容易に実施することができる。そのために政府機構が肥大化するような怖れは無い。このような施策は、基本的には「消費者主権 の原理」が貫徹している市場経済体制に最も適合しており、経済に不自然・不合 理な歪みを残す心配もない。巨大なデフレ・ギャップという形で膨大な生産能力の余裕が存在している以上は、このような大規模な景気刺激策を実施しても、インフレ的な物価上昇が起る危険性は皆無である。そして、このように、わが国の経済が決定的・即効的に回復・成長しはじめることにともない、アジア諸国の経 済も急速に立ち直り、「世界大不況」の発生も防止されうることになろう。

(注) われわれが要求しているような施策で100兆円を超えるGDP水準の上昇が生じることは確かであるが、電子的な多角決済システムが発達している現代においては、このように100兆円以上ものGDP水準の上昇があるとはいっても、それにともなって生じる現金貨幣の必要流通量の増加は8兆円程度にとどまる。したがって、「全国民へのボーナス支給」という施策の実施に充当するために「政府の貨幣発行特権」を発動して得られた数十兆円の政府収入額も、それが実際に現金貨幣の発行の形をとるのは比較的僅かの部分にすぎず、その大部分は帳簿上の決済処理ですまされることになろう。また、われわれは、わが国民の消費性向が顕著に低下したから不況が深刻化したなどという説が、まったくの誤りであることを知りぬいている。したがって、一部の政党が主張しているような「有効期限つきの商品券」を国民に配布して内需拡大をはかるべきだとする政策案を無用と考えている。

以上のごとく、われわれの要求する「政府の貨幣発行特権」の大規模な発動を財源手段とする「全国民への、一律、数十万円のボーナス支給」という施策を断行すれば(しかも、それを幾年か継続実施するものとすれば)、わが国の経済を不況・停滞の現状から脱却・回復させ、たくましい成長軌道に乗せることはきわめて容易である。国家財政の健全化も、金融機関の破綻防止も、たちどころに達成されうる。しかし、逆に、このような「正統的かつ真正」のケインズ的景気回復策なしでは、不良債権問題の処理や金融機関破綻の防止などはきわめて困難であり、ましてや、政府財政の再建といったことは絶望となる。同じく、「正統的かつ真正」のケインズ的景気回復策が行なわれていない状況のもとでは、規制緩 和や構造改革といったことにいかに努力しようとも、犠牲のみ多くして、その効 果はきわめて乏しく、また、不確実であり、すべて、徒労に終わるであろう。よって、われわれは、繰り返して強く要求する。「政府は、正統的かつ真正のケインズ的財政政策による景気回復策の大規模な実施を、ただちに断行せよ!」と。これは、われわれ企業者にとっては、まさに死活的に重要な意味を持つ切実な必死の要求である。

しかしながら、とくに「平成不況」が発生してからは、上記で言及し批判した幾つかの謬説にとどまらず、枚挙にいとまが無いほど数多くの誤った見解や風説が広く流布され、「反ケインズ主義」の支配という危険な社会的マインド・コントロール状況を創り出してきた。そのような、誤った見解や風説のすべてを取上げて、それらが誤謬であるゆえんを一つ一つ指摘していくことは、あまりにも煩雑・冗長であるので、本文書では、そのようなミス・リーディングな見解や風説を、別表で列挙しておくにとどめる。

もしも、われわれのこの要求書を受け取った政策担当者のなかで、別表に示されているような見解や風説にとらわれて、われわれの政策要求を退けようとする人は、まず、われわれに質問を寄せられたい。われわれとしては、そのような見解や風説が誤謬である理由を、理論的かつ実証的に、懇切丁寧に説明・教示する用意がある。もしも、われわれに、そのような説明・教示を求めようとさえもせずに、無下にわれわれの要求を棄却して顧みようともしない政策担当者が居るならば、われわれは、そのような者をぜったいに許さない。われわれは、全国の同志を糾合し、その不誠意な政策担当者を、徹底的に糾弾するであろう。


別表  
    誤謬に満ちた見解・風説の数々

過去十年、とりわけ「平成不況」がはじまってからというものは、わが国の経済についての誤った見解・風説が、きわめて数多く広範に流布され、「反ケインズ主義」の社会的マインド・コントロール状況の形成を加速してきた。ここではとりあえず、そのような誤謬に満ちた見解・風説のうちの主要なものを、順不同に列挙しておく。

  • 従来の理論(ケインズ理論)とそれによる政策は役に立たなくなった。
  • 乗数効果は、働かなくなった。
  • 大規模な総合経済対策の効果無しは、乗数効果が作動しなくなったせいだ。
  • 公共投資は効果を失った。
  • 消費性向が下がったから不況になった(だから財政出動でも無効果だろう)。
  • 資産価値の大幅減価があるから、ケインズ的政策を実施しても景気は回復しない。
  • 金融混乱をしずめさえすれば、景気は回復する(ケインズ的内需拡大策は不要だ)。
  • 悪事を働く者が居るから不況になった。
  • 不健全バブルはケインズ的政策のため生じた(だから、そんな政策はやめよ)。
  • デフレ・ギャップはあまり生じていない(だからケインズ政策は不要だ)。
  • グローバルな開放経済時代ではケインズ的政策は無効である。
  • 産業空洞化は正常な国際分業によるものだ(だから、あきらめ、歓迎すべきだ)。
  • ケインズ的政策は将来世代に大きな負担を負わせる(だから、やってはならぬ)。
  • 経済の成熟で潜在成長率が下がったから低成長や停滞はやむをえない。
  • いまはサービス産業・知識産業の時代だから、ケインズ的政策は役に立たない。
  • 産業間の波及効果が小さくなっているから、ケインズ的政策は無効になっている。
  • 構造改革をまずやらなければ、ケインズ的総需要拡大政策も無効果だ。
  • 高コスト構造の是正がまず必要で、ケインズ的政策などは有害無益だ。
  • サプライ・サイド政策でいくべきだ(だからケインズ的政策をやるべきではない)。
  • リストラ、規制緩和、行革でいくべきで、ケインズ的政策は無用だ。
  • 行革で財源をうかして減税をやれば景気は回復する(ケインズ的政策は無用だ)。
  • 個人金融資産1200兆円があるから、ケインズ的財政政策などは不要だ。
  • クラウディング・アウトやマンデル=フレミング効果でケインズ政策は無効となる。
  • 新古典派理論の登場でケインズ的政策論は無価値になった。
  • いまは「複雑系」の時代だから、ケインズ理論は役に立たなくなっている。
  • 財政再建のためには、緊縮財政によるどんな激しい不況も、がまんすべきだ。
  • 調整インフレで景気は回復しうる(ケインズ的内需拡大策などは不要だ)。

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