600兆円計画マニフェスト
━財政再建と「右肩上がり」高度成長経済および防衛力整備の実現へ!━
(1) 税金でも国債でもなく、また紙幣を刷りまくるわけでもなく、国民にはまったく負担をかけない方式で、600兆円の新規の追加的な国家財政財源を確保して、わが国の 財政を再建し、景気を回復させて経済を逞しい「右肩上がり」の成長軌道に乗せることを、政策の基本とするべきである。
〔注1〕 600兆円の新規財源の調達方式について質問を受けたときには、国(政府)がきわめて巨額(事実上は無限)に所有している「無形金融資産」のうちの650兆円ぶんを、50兆円値引きし、600兆円の代価で政府が日銀に売ることによって調達することにするが、そうすることによって、日銀の資産内容もいちじるしく改善され、わが国の金融システムや信用秩序を確固としたものとすることにも役立つと、答えればよいであろう。その「無形金融資産」とは何かと尋ねられた場合には、日銀券とは別個の「政府貨幣」(政府紙幣および記念貨幣をも含む)についての「国(政府)の貨幣発行特権」(seigniorage、セイニアーリッジ権限)であると答えればよい。法的根拠を問われた場合は、基本的には「通貨の単位および貨幣の発行等に関する法律」(昭和62年、法律第42号)第4条、および、「日銀法」第38条であると答えればよい。なお、総需要政策としての財政政策のためのマネタリーな財源調達には、マクロ的に生産能力の余裕がある場合には、「国(政府)の貨幣発行特権」の発動に依拠すべきだとする政策提言が、20世紀の半ばごろより現在まで、ラーナー(A. P. Lerner)、ディラード(D. Dillard)、ブキャナン(J. M. Buchanan)、スティグリッツ(J. E. Stiglitz)といったノーベル賞受賞者級の巨匠経済学者たちからも繰り返しなされてきており、経済学的にはきわめてオーソドックスな政策案であるということを、銘記するべきである。
(2) 現在、わが国の経済では、生産能力の余裕は十二分にあり、企業は需要に応じてきわめて敏速・的確に商品を供給しうる能力を持っている。にもかかわらず、総需要の不足のゆえに、せっかくの生産能力の余裕を生かしえず、膨大なデフレ・ギャップの発生という形で、年々、400兆円もの潜在実質GDPが実現されえずに空しく失われている。 過去四半世紀のあいだに、このようにして、実に総額5000兆円(1990年価格評価の実質値)もの潜在実質GDPが失われてしまったのである。これこそが、わが国の経済の弱体化と国民の経済的苦しみ、ならびに、国威の衰退の根本原因である。したがって、上記の600兆円の追加的な新規財政財源のうちの250兆円程度を3 〜 5年間に投入して、大々的な総需要拡大政策を実施し、わが国の経済を一挙に再生・再興させることが必要である。このことは、「乗数効果」が健在で、「有効需要の原理」がゆるぎなく作用しているわが国の経済では、きわめて簡単・確実、かつ、安全・容易に達成しうることである(わが国経済における「乗数効果」が微弱であるとする通説は、まったく根拠の無い虚節である)。生産能力の余裕が十二分にあるのであるから、物価安定下での高度経済成長の実現という、理想的な状況をわが国民は享受しうるはずである。そのように、ゼロ・サム・ゲーム状況を脱却することによって、格差問題も解決されうる。
〔注2〕 このような高度経済成長政策の実施にともなって、きわめて過大な量の「紙幣が刷りまくられる」ことになるのではないかと危惧するむきもあるかもしれないが、その心配は無用である。エコノミストたちにはよく知られているように、GDPの増加額に「マーシャルのk」(マクロ・ベースでの現金通貨流通速度の逆数)と呼ばれる係数を乗じた額として、現金通貨量の増加額は決まる。この「マーシャルのk」の値は、だいたい0.08 〜 0.16 くらいのものである。つまり、かりにGDPの水準が100兆円上昇したとしても、それにともなう現金通貨量の増加額は8 〜 16兆円程度ですみ、心配するほど過大な量にはならない。
(3) 上記の新規財源の残余350兆円を用いて、 現在の国の長期債務残高746兆円(財務省推計による平成18年度末の国家長期債務残高見込み額605兆円に、「財政融資資金特別会計」に計上見込みの国債残高141兆円を加算)のうちの半分に近い350兆円を、ここ1〜2年のあいだに償還し、経済成長の回復にともなう財政収入の大幅な増加ともあいまって、わが国家財政を根本的に再建する。
〔注3〕 国債の大量償還は、過剰流動性現象を惹起するおそれがあるが、それを回避するためには、政府が、円高の防止・是正をもかねて、あらかじめ、米国など外国の公債を大量に購入しておき、その外国公債との等価交換で、国内の投資家から日本政府発行の国債を政府の手元に回収する(国内投資家には代償として外国公債を渡す)という方式を、適宜、併用すればよいであろう。わが国の経済が、上述のような政策の断行によって急速に回復し、高度成長軌道に乗りはじめれば、外国の投資家は競ってわが国に投資しようとし、海外から、きわめて大量の資金がわが国に流入しはじめ、そのことが非常に大きな円高要因になる惧れがあるが、わが政府が上記のような国債償還方式を実施すれば、外国資金の大量流入による円高圧力に打ち勝って、むしろ、かなりの円安をもたらすことが可能となり、そのことによって、わが国は「産業空洞化」の悪夢から解放されうることになろう。
(4) 言うまでもなく、上記(2)の総需要拡大政策は、確実に「有効需要」(生産されたモノやサービスを実際に買う需要)を増加させることになりうるか、それとも、同じく確実に国民の「所得」を増やすことになるような財政政策支出として実施されるべきである。この意味で、自然環境の改善のための公共投資や防衛力整備のための支出といった有効需要支出を増やすとともに、国民への給付政策、年金など社会保障の充実・確保、といった政策に力点が置かれるべきである。したがって、このような政策運営が行なわれるようになれば、国民は年金システムの将来などを心配しなくてもよくなる。当然、わが国の人口は増加傾向を回復しうるであろう。
(5)上記のような経済の回復によって、いわゆる不良債権・不良資産の大部分は、優良債権・優良資産に一変しうる。
(6)過去四半世紀、わが国の総需要政策はきわめて不十分──というよりは、マイナス方向への暴走──であった。その結果、上述のごとく、国民も政党も国会議員も知らないあいだに、わが国は、5000兆円という超膨大な潜在実質GDPを空しく失ってしまったのである。この苦い経験を反省するならば、どうしても、総需要政策(上記で提言したような政策をも含 めて)の不十分や、上方あるいは下方への暴走を防止するための「歯止め」が要る。この「歯止め」は、デフレ・ギャップやインフレ・ギャップを常にモニターしつつ(これまで、わが政府はそれを怠ってきた)、それに立脚して年々の総需要政策を合理的に国会で審議・決定するという制度、すなわち、いわゆる「国民経済予算」の制度を確立することによって行なわれるべきである。「市場経済」にこの「国民経済予算」の方式を結び合わせた制度こそが、人智のおよぶかぎり、最善の経済システムなのである。
要するに、今日のわが国の経済についての、上述のような政策提言マニフェストは、政策担当者に対する
- デフレ・ギャップの巨大さと、その意味を知れ!
- 乗数効果ならびに有効需要の原理が健在であることを認識せよ!
- 「国の貨幣発行特権」の大規模発動で財政財源を確保せよ!
- 国民経済予算の制度を確立せよ!
という相互に密接に関連し合った4項目の要請に集約されるわけである。
この4項目こそが、急所である。実は、これまで、私(丹羽)が、数多くの論作において、幾度も指摘してきたように、わが国では、奇怪な社会的マインド・コントロール状況が作り出されていて、この4つのポイントは巧妙に隠蔽され、わが国民は(政党や政治家諸氏も)、これに気付くことができないようにされてきた。まさに、このことによってこそ、わが国の経済は、衰亡への道に陥れられてきたのである。しかし、この4項目を認識・確認することによる理論武装を行なえば、そのような社会的マインド・コントロール状況を形成させてきた思想謀略を破砕することが可能となるであろう。
一般庶民に対する経済政策的アピールとしては、簡潔に、
@ 国民にまったく負担をかけない新規財政財源を数百兆円確保!
A 国の負債の大量償還! 国の負債を半減!
B 3 ~ 5年間250兆円を投入、年率5パーセント以上の経済成長率を10年!
C 年金アップ! 社会保障の画期的充実! 防衛力も整備!
D デフレやインフレを防ぐ真の「歯止め」の確立!
といったことをうたっておけばよいであろう。
以上
参考文献:
丹羽春喜著『日本経済再興の経済学』(原書房、1999年刊)
同 上 『日本経済繁栄の法則』(春秋社、1999年刊)
同 上 『謀略の思想「反ケインズ主義」』(展転社、2003年刊)
同 上 『不況克服の経済学』(同文館出版、2003年刊)
同 上 『新正統派ケインズ政策論の基礎』(学術出版会、2006年刊)
[補論]わが国の経済・財政の現状を、どう見るべきか? 平成18年10月19日
(平成19年6月に加筆)
謎!名目値の低成長と実質値の高成長の不自然なアンバランス
平成18年8月の内閣府発表では、2005年度(平成17年度)GDPは名目値1.8% (18年12月の発表では1.0%に改定された)の低成長、実質値では3.2%(同じく 2.4%に改定された)の高成長という、大幅なアン・バランスであった。
この謎を解く鍵は、貿易収支黒字が名目値では大幅減、実質値では大幅増、すなわち、対外交易条件の悪化ということにある。
デフレ・ギャップと需給均衡の共存、そして、景気失速の危険をはらむ跛行現象
民間企業投資の高成長、GDPと国内総需要の低成長という跛行性。これは、2006年度においてはさらに激化し、民間企業投資の伸び8.4%に対してGDPは1.4%、国内総需要は1.3%(名目値ベース)の伸び率にすぎなかった(平成19年6月11日の内閣府発表)。
このような跛行性は、長くは続きえない!景気失速の危険はきわめて大きい。
ただし、日本経済の市場メカニズムの効率は高く、需給はみごとに均衡している(45度線モデルにおけるケインジアン・クロス点という意味でのマクロ均衡状態)。
乗数効果も顕在だ。 しかし、総需要水準の不足により、厖大なデフレ・ギャップ が居座っているということも、冷厳な現実である。しかし、このことは、わが国の経済がマクロ的に巨大な生産・供給能力の余裕をを持っているということをも、意味している。
ゼロ・サム・ゲーム経済では格差拡大が不可避
GDPおよび国内総需要の伸び率が年率1%内外といった状況は、事実上、ゼロ・サム・ゲームの経済である。そのようなゼロ・サム経済ないしネガティブ・サム経済が慢性化した状況の市場経済では、貧富の格差の拡大が不可避である。 格差の是正のためには、右肩上がりのポジティブ・サム経済の実現こそが、根治療法である。
財政破綻の実情は深刻だ!
国の一般会計赤字額は「プライマリー・バランス」赤字額の3倍に達している。歳出削減や増税では財政再建は不可能! しかも、経済の低迷を招くことが不可避!自暴自棄的な政策──国家破産や超々巨額の財産税徴収(全国民の財産剥奪)──が選択される危険が大きい!
以上のことを認識するならば、財政再建と経済の興隆、民生水準の向上、自然環境の改善、そして、防衛力の充実といった重要政策目的の達成をなしえないことが明らかな現在の混迷した政策立案パターンから脱却して、上述マニフェストのようなオーソドックスな経済学理論を踏まえた政策の立案によって、わが国の財政と経済の再建・再生を迅速かつ100パーセント確実に達成するという政策運営が、ぜひとも、必要であろう。